二つの事件と動物行動学
『動物行動学』の海の親で言われる、コンラート・ローレンツ(故人)の本を読み、彼の大ファンになった私は、その后、動物行動学に関する何冊かの本を読みました。その中、ライフネーチュアライブラリー『動物の行動』に、最近の二つの事件の犯人に共通するような著述があるのを見つけました。 アメリカ・ウィスコンシン大学霊長類研究所、所長ハリー・F・ハーロンの実験に、十年間にわたるアカゲザルの子供と母親との間の関係を調べたものがあります。
生まれたばかりのサルに二つの針金のわくで作った人工的な母親を与えてテストしたものです。一つには、木でできた顔にミルクビンを付け、他の一つは、柔らかいテリ織の布をまいて作りました。サルの赤ちゃんは、この二つの母親からミルクをもらいましたが、生長するにつれて布を巻いてある母親によじ登り、まといつく時間が長くなっていったと言うのです。おもちゃのクマを見せると子ザルは、おびえて布製の母親のところに急いで逃げ帰り、抱きつき安心して、やがてそのクマをあれこれと調べはじめる。同じように、見慣れない部屋に入れると子ザルは、すぐに布製の母親を捜し求め、安心するために、しがみつき、その后その部屋を調べはじめると言う。
また実の母親も布製代用品の母親もなく育ったサルは、成長した時、社会生活に大きな支障をきたす。彼らの仲間との正常な結びつきを欠き、まず正常な性行為さえできなくなり、ひどく攻撃的になるか、まったく無感情になってしまうと言うのです。
最近の二つの事件。
①五月七日・新潟女児殺害事件。
②六月十三日・新幹線内三人殺傷事件。
この二つの事件の背景。二人の犯人の性癖。逮捕時の映像から観る犯人の様子から、温かみのない所で、ただミルクを与えられて育ったサルの実験を思い出したのです。
母親とは何なのか。愛情とは何なのか。母親とは、赤ちゃんにとって絶対に安心する場所、無条件に受け入れ、守ってくれる存在。愛情とは、その覚悟とそれに根差した温かさだと思うのです。沢山の情報。個々の快楽だけを求める幸福感。日本は、どうなってしまうのだろうか。